前回、メタバース空間などに存在する著作物に焦点を合わせると、著作権情報がポップアップで表示されて、その著作物を利用して二次創作をした瞬間に著作権者に何らかの報酬が与えられる仕組みの可能性の話をしました。
ここで重要になってくるのは、その著作物について二次創作が許されているかどうか、すなわち、著作権者が二次的著作物を創作する権利を他人に認めているかどうか、ということです。それが認められていないならば、そもそも二次創作を行うことはできないからです。
ですので、ポップアップ表示される著作権情報には、二次創作が許されているか、許されているならば著作物の利用料はどれくらいか、という情報も盛り込む必要があります。
著作物がデジタル社会・ネットワーク社会で流通し、誰もがデジタル情報としての著作物を鑑賞できるようになり、その範囲と量は今後ますます大きくなり、著作物の鑑賞にとどまらず、著作物の利用(二次創作)もどんどん盛んになっていくことが予想されます。誰かの著作物を利用して自分が著作物を創作して、その著作物が更に他人が利用する、・・・それが日常的に行われる世界が今目の前に来ています。
しかし、デジタル情報としての著作物についての著作権情報がハッキリとしていない、可視化されていないことが様々な不秩序の原因となっており、仮に著作権法違反になっていたとしても、何がどのように違反しているのかも不明なままであるので、結果として様々な抜け道が生じているのが現状です。
特に喫緊の課題は、何度も述べてきているように、漫画やアニメのパロディ作品や、楽曲のアレンジ曲を堂々と行えるような仕組みの構築です。
著作者がマークによって作品使用の条件を示すクリエイティブ・コモンズの例を以前に紹介しました。今後は、更に進めて、著作物の有償提供や、著作物の利用料についての情報を提供することが求められます。I T技術によって、これらの情報を可視化してわかりやすく伝えるシステムやサービスを開発しなければいけません。
また、音楽著作権を管理しているJASRACが、著作権者に代わって著作権使用料の徴収を行なっていることを以前に紹介しました。今後は、更に進めて、楽曲をアレンジすること(二次的著作物を創作すること)を著作権者に認めてもらう仕組みを構築することが求められます。I T技術によって、その仕組みを効率よく実現するシステムやサービスを開発しなければいけません。
前回までに、ソフトウェアにおけるオープンソースの推進や、学術論文や特許文献における創作の連鎖の例も取り上げました。
創作者自身がソフトウェアやサービスの開発環境において今まで以上に恩恵を受けることは必要ですし、創作の連鎖をパロディ作品やアレンジ作品の二次創作においても実現していくことが求められています。そして、それらを実現可能にするのは、ますます高度化するデジタル社会・ネットワーク社会であり、I T技術の進歩がその中核を担うこととなります。
さて、I T技術の進歩だけで、創作者にとっての理想的な社会が実現するでしょうか。著作権の情報が可視化され、二次創作の仕組みが構築されて、ひいては創作者の地位が向上する理想的な社会・・・
I T技術の進歩だけではその実現は無理です。創作者自身が著作権や、著作権を含む知的財産権についての理解を深めて、知的財産権が今後の社会においてどのような位置付けになっていくかの視座を身に付けなければなりません。生成AIにこれらを丸投げする訳にはいかないのです。
このように、「情報の大航海時代」においては、著作権の問題は今まで以上に重要かつ必要なものとなってきます。
著作権や、著作権を含む知的財産権についての理解や視座を、創作者自身が身に付けることが大切なのです。
今回まで、「情報の大航海時代」における著作権の問題について述べてきました。
次回からは、著作権を含む知的財産権が今後の社会においてどのような位置付けになっていくかの視座について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。