前回は、研究者が書く論文において、先人の知の系譜を参考文献として掲載する例を紹介しました。良い論文であれば、追従する多くの研究者たちによってそれが参照され、彼らが書く論文の中でそれが参考文献として掲載されることになります。つまり、後続する論文において、参考文献として多く取り上げられると、影響力のある良い論文だと認められるのです。
このような例は他にあるでしょうか。
技術者が書く特許文献の例があります。特許権は技術発明を独占できる権利であり、特許権の内容は特許文献に書かれています。その特許文献には先行技術文献が掲載されており、そこに過去の特許文献が含まれている場合が多いです。
新しい発明をするに当たって、前提となった過去の発明、参考になった過去の発明が紹介されているのです。すなわち、過去の発明、以前の発明者をリスペクトしつつ、自分の発明のどこが新しいかを説明するために、進んで過去の発明を紹介しているのです。
特許文献を読む第三者にとっても、特許文献の中に過去の特許文献が載っていることによって、その特許文献の何が新しいのか、新発明の何が優れているのかを知ることができます。技術者以外の人にとっては特許文献は馴染みがないかもしれませんが、特定の技術分野においては、特許文献は極めて重要な役割を持っており、新技術の開発に取り組む技術者にとって特許文献を読むことは必要不可欠です。その特許文献に載っている過去の特許文献を読み、さらに、その過去の特許文献に載っているもっと過去の特許文献を知ることが、技術者には求められます。技術者は、技術の系譜を知る必要があるのです。
このように、特許文献においても、技術の系譜が「過去の特許文献」として掲載されている事実は、とても示唆的です。
技術の系譜である特許文献の連鎖を可視化するサービスもあります。デジタル化・ネットワーク化が進んでいけば、そのような可視化が高度に発展し、例えば、メタバース空間で技術を可視化し、過去から現在に至る技術をバーチャルに再現することもできるでしょう。それが新技術開発のツールにもなり、新しい発明を飛躍的に生み出す起爆剤になります。
例えば、新薬の発明に貢献しているタンパク質構造の可視化は、見方を変えると新発明の可視化でもあり、単一の発明の可視化に限らずに発明の連鎖としての可視化が実現できれば、そのツールは新薬の発明を飛躍的に生み出すことになるでしょう。
この技術の系譜の例も、漫画やアニメのパロディ作品や、楽曲のアレンジ作品のような二次創作の理想形を考える上で参考になります。
パロディ作品やアレンジ作品に、元の著作者などの情報、様々な著作権情報を付けていく。高度に発展したデジタル社会・ネットワーク社会において、発表されたパロディ作品やアレンジ作品にはその情報が(当然のこととして)付いている。メタバース空間や3D Webの中に存在する著作物に焦点を合わせると、その情報がポップアップで表示される。過去の著作物を利用して二次創作をした瞬間に、その著作物の著作権者に何らかの報酬が(瞬時に)与えられる。・・・これらはもう技術的には可能な筈です。
来るべき未来社会、創作者が尊ばれるデジタル社会・ネットワーク社会の創生に向けて、創作者や著作権者自らが高らかに声を上げていくことが真に必要なのです。