前回は、オープンソースの例を示してソフトウェア開発における二次的著作物の創作の連鎖と、開発者に対して報酬を支払う仕組みの必要性について述べました。
創作の連鎖について、他の例を見てみましょう。
学術研究において、研究者は論文として成果を世に出します。その論文に、他人の過去の論文の一部を引用したり、引用はしなくても参考とした他人の過去の論文を「参考文献」として掲載します。具体的には、過去の論文の名称、著者名、誌名・巻・号、出版年を論文の最後に掲載します。
研究者が論文を読むとき、この参考文献を先に読む場合も多く、それくらい論文における参考文献は重要なものになっています。
知の最先端である論文は、過去の蓄積の上で成り立っているので、過去から現在に至る先人の知の系譜を参考文献として掲載することが慣例になっているのです。研究者は、先人の研究者(著作者)をリスペクトしつつ二次創作を行っているとも言えます。
以前に述べた漫画やアニメのパロディ作品や、楽曲のアレンジ作品も二次創作でした。パロディ作品を創ったり、アレンジ作品を創る人たちは、元の漫画、アニメ、楽曲をリスペクトしないのでしょうか。
決してそうではないと思われます。先人の著作物をリスペクトしつつ二次創作を行なっている筈です。そして、自分が創作したパロディ作品やアレンジ作品を、更に他の人が改変・発展することも許す筈です。
では、何故、パロディ作品やアレンジ作品には、元の著作者などの情報、すなわち、著作権に関する情報がないのでしょうか。
慣例になっていないから、そもそも著作権に関する情報が不明だから、その情報を示すことの本当の意義を共有できていないから、・・・これらは今まで述べてきた状況ですね。
この状況は悲しいことです。今はデジタル化・ネットワーク化が高度に進んでいます。これから益々進んでいくでしょう。それなのに、最も肝心な著作権の情報が重要視されていないのです。
著作権情報がないことによって、情報の大航海時代の不法地帯で、海賊たちが暗躍している。善意な創作者、すなわち元の著作者をリスペクトして二次創作を行う創作者が、そして、何らかの経済的報酬を払ってもよいと考えている創作者が、図らずもこの不法地帯をさまよっている・・・
今後のデジタル社会・ネットワーク社会においては、こうした状況を改善していかなければいけません。
次回もこの問題について考えていきましょう。