前回は、二次的著作物の創作に当たって創作者自身が著作権に関する知識を身に付けて環境改善を図るべきという話をしました。
実際にそのような環境改善が提起された有名な例としては、ソフトウェア開発の分野におけるオープンソースの推進が挙げられます。
オープンソースは、ソフトウェア開発者がプログラムのソースコードを公開して、ソフトウェアの改変や向上を他者に促し、更には改変されたソースコードを同じように公開することを他者に求めることによって、多人数参加によるソフトウェアの開発と普及を図る取り組みです。既に20年以上の歴史があり、ソフトウェア開発に詳しくない方でもオープンソースの言葉自体は聞いたことがあると思います。
このオープンソースで重要なのは、開発者(著作者)がプログラムの著作権を放棄するのではなく、著作権を前提としてプログラムを利用する他者に著作者の表示を課したり、他者に対して「改変したプログラム(二次的著作物)」の公開条件を指定している場合があるということです。すなわち、著作者の氏名表示権を尊重し、二次的著作物の利用の仕方(ライセンス方式)について取り決めている点で、著作権に基づいたルールであると言えます。
このオープンソースでは、他者が「改変したプログラム(二次的著作物)」を商用目的で利用することができる場合がありますが、その際に、元の開発者に何らかの経済的報酬が与えられるかについては特に定まっていません。元の開発者も、自分が開発したプログラムの動作については何ら保証していないので(プログラムが悪影響をもたらすこともあり得る)、他者に経済的報酬を求めてはいない仕組みになっていますが、仮に他者が二次的著作物で大儲けをしたときに、元の開発者に何の報酬もないというのはやや不自然のようにも思えます。
ソフトウェア開発はスピードと機能向上が命であり、多人数参加によってそれを実現することが第一目標であるとしても、二次的著作物の利用によって生じる利益の一部を元の開発者へ還元する仕組みの構築や、元の開発者→二次的著作物の開発者→二次的著作物を更に改変した開発者→・・・という無限連鎖を好循環のループで回していく方法を考えていくことが必要です。
優秀なソフトウェア開発者や、優れた発想でソフトウェアやサービスを生み出す創作者を尊び、然るべき報酬によって支えていく仕組み作りが、これから益々発達していくデジタル社会・ネットワーク社会では求められる筈です。
理想的には、ソフトウェアやサービスによって恩恵を受けるエンドユーザーが、受益者として直接的にソフトウェアやサービスの開発者に対して報酬を支払う仕組みが望まれます。
物(製品)が流通の主役であった時代から、ソフトウェアやサービスが流通の主役になる時代がいよいよ本格化します。特に、メタバースや3D Webの時代になると、我々は仮想空間の中でソフトウェアで生成されたモノを使用したり消費したりします。そのときに支払う代金は、プラットホーム運営会社に対してではなく、ソフトウェアやサービスの開発者に対してであるべきです。
そのような理想社会の実現に向けて、ソフトウェアやサービスの開発者自身が声を上げていくことが重要です。
次回もこの問題について更に考えていきましょう。