前回は、仮想空間の未来形には無限の可能性がある、その仮想空間を構成するものが「著作物」である、という話をしました。
今まで以上に「著作物」がクローズアップされる社会、仮想空間が商空間になる社会、その入り口に私たちは立っているのです。
数年後にはメタバースや3DWebは当たり前の社会になっていると思われます。今はその前哨戦の最中にある、という段階です。
前哨戦、というと、1980年代のインターネット前夜が思い出されます。
インターネットが当たり前になる前の1980年代に、インターネットの先駆けとなるサービスが実践されていました。カナダのテリドン(Telidon)や、日本のキャプテンシステムです。
Wikipediaでは、キャプテンシステムについて、「このシステムは電話回線を介して情報センターと端末を結び、利用者の要求に応じて情報を呼び出せることが主な特徴であり、1980年代当時の日本ではニューメディアの代表格として扱われていた。・・・当時「高度情報通信社会」と呼ばれていた時代は、インターネットによって20年以上遅れて実現した。」と説明されています。
1990年代後半からインターネットが普及して、キャプテンシステムは衰退しましたが、このシステムが目指した文字情報や図形情報の双方向交換は、今ではスマホのLINEアプリで誰もが当たり前に行っています。
文字情報や図形情報を双方向で交換するというアイデアに、技術が追いついた、という図式です。
メタバースや3DWebはどうでしょうか・・・
Call of Duty シリーズや、FORTNITEなどのオンライン対戦ゲーム(仮想空間におけるマルチプレーヤーによるリアルタイム対戦のゲーム)を見ていると、技術的には相当なレベルに達成していると私は見ています。
フォトリアリスティックなCG描写、リアルタイムレンダリングが可能なグラフィックエンジンなどによって、実物と見間違えるほどの仮想商品が仮想空間内に存在し、その完璧な仮想商品の姿を見ても、私たちは驚かなくなっています。そう、もう技術的にはメタバースや3DWebは可能なのです
では、メタバースや3DWebが本格的に花開かないのはどうしてなのでしょうか。勿論、コストパフォーマンスの問題はあるでしょう。でも、それが真の理由でしょうか。
何が障害なのか。メタバースや3DWebが開花しない原因は何であるのか。言い方を変えると、メタバースや3DWebを開花させない旧い仕組みは何であるのか・・・
それは、メタバースや3DWebの中に存在する著作物の取り扱いの問題がクリアになっていないからです。
著作権の仕組みが旧態依然としており、この(輝かしい)メタバースや3DWebの普及に歯止めがかかっているのです。
しかも、その歯止め自体がハッキリしたかたちで表れていない。旧い著作権システムのベールに隠されてしまっているのです。
このような状況に、創作者(クリエイター)は声を上げていかなければなりません。
今までは、リアルな世界で創作者は小説を書き、音楽を作曲してきました。そして、小説は書籍として、音楽はレコードしてリアル世界で流通していました。リアルな世界では、書籍の出版社や、レコード製作会社が、著作物(リアルな書籍やレコード)を流通させる主として君臨してきました。
これからは違います。
メタバースや3DWebの中で、作家や作曲家自身が、小説や音楽を流通させる主となります。リアルな書籍やレコードとしてではなく、メタバースや3DWebの中で、小説や音楽自体が存在しているからです。本物の小説や音楽がメタバースや3DWebの中に存在しているのです。この小説や音楽が著作物であることは、これまでのブログで述べてきました。
そして、仮想商品を生み出すクリエイターが、仮想商品を流通させる主となります。なぜならば、クリエイターは、仮想商品という著作物を生み出す著作者であるからです。
これらの著作物の取り扱いが明確になれば、わかりやすくなれば、メタバースや3DWebの世界の扉は一気に開かれます!
メタバースや3DWebのような仮想空間の中には、小説、音楽、仮想商品などが浮かんでおり、これらは、デジタルとして、曖昧ではないかたちで存在しています。
仮想空間の中に浮かんでいる小説、音楽、仮想商品は、それ自体が著作物であり、この著作物の取り扱いを明確にすることが急務ですが、現状では、その取り扱いについて積極的に前面に押し出すアプローチがとられていません。具体的には、どのようなアプローチが必要なのか。
例えば、仮想空間の中で、各自が小説、音楽、仮想商品を創作した日付を明確にしておく。なぜならば、著作権は、創作した時点で発生するからです。また、その著作物を他者が利用できるかどうかは著作者自身が決めることができて、他者は勝手にそれらの著作物を利用することはできません。このことは、これまでのブログで解説してきました。著作者自らが、他者にどのように利用してもらうかの情報を決めてそれを表示する。すなわち、小説、音楽、仮想商品の利用可能性や対価についての情報を表示する。このような情報表示技術は既に確立しています。IT技術として容易に実現できる筈です。
メタバースや3DWebのような仮想空間において、上記のような著作権の取り扱いの仕組みを構築すればよいのです。
こうして見ていくと、仮想空間においては、リアルな世界におけるよりも、より明確に著作物が「真」なるものとして存在しており、著作物を生み出す著作者の立場が極めて大きくなっているということができます。
つまり、簡単に言えば、仮想世界の方が、リアルな世界よりも、著作物が目立ってくる、著作権が前面に出てくるのです。
今こそ、仮想世界における著作権のあり方を真剣に考えていかなければなりません。これこそが仮想空間を構築する上での最重要課題なのです。
新しい技術に、旧い著作権システムが追いつく、という図式、これがまさに今求められているのです。
新しい扉が開かれようとしています。
もし貴方がクリエイターなら、あるいはクリエイターを応援する立場なら、著作権について、新しい著作権システムのあり方について、見識を持つべきです。そして、その扉を開ける側、新しい仮想世界をかたち作る側に立つべきです。
次回もまた、仮想空間内の「著作物」について考えていきましょう。